KOBUNKAN ACT （弘文館進学ゼミACT 小学部）

受験は孤独なこともある。そこで友人、知人と一緒にいないと安心できない場合が多い。しかし、受験は1人での戦い、自分にくる誘惑との戦いともいえる。

私の出身高校から浪人した医学部志望者は、全員が駿台予備校が進んだ。私だけが代ゼミである。医学部受験の仲間はいない。私立文系コースに進んだ仲間と時々会って雑談をするくらいである。しかし、入試科目が違うため英語と国語の話題や同級生の話題をするくらいだった。


高校を出てフリーターをしている友人から電話が来た。

「Hから聞いたんだけど、お前、最近、顔が険しいそうじゃねぇか？大丈夫か？」

友人はかなり心配をしてくれた。Hは高校時代は顔見知りの同級生で、友人と同じクラスだった。友人によるとHも心配しているというのだ。

翌日、Hのいるクラスにいった。すぐに打ち解けて仲良くなった。それ以来、いつも一緒にいるようになった。理数に長けている学生だった。

しかし、しばらくすると毎晩、毎晩、電話が来る。時間割や模試の日程などの確認をするという主旨だが、実際は、「好きな女がいる」「○○クラスの女にかわいいのがいる」などなどである。恋愛など考えたくない時期であるので「やめようや」ということもできなかった。電話は短くても1時間、長いと3時間である。

受験が終わって私は2浪、彼は旧帝大に入った。ゴールデンウイークに帰京してわざわざ代ゼミに登場した。2浪になって話すようになった同じ高校出身の同級生のWと私に学生証を「いいだろ、いいだろう」と見せてくれた。明らかに浪人生を馬鹿にした態度だったが、私は我慢した。

夜になっていつものようにHから電話が来た。大学生活の自慢話、高校時代の女のことなど。さすがに私は今まで溜め込んでいたことを吐き出した。

「今日の学生証の件はどういうこと？俺もWもいい思いしないでしょ。あと、こんな電話をかけてくるけど、去年もそうだったね。いつも女の話ばかりで、そんなの解決できない。何のために電話をしてきた？」

Hは、

「ああ、受験勉強のストレス解消」

「大体、それで俺の勉強時間はたくさん割いた。結局そんなもんなのか？」

「そうだよ」

私は愕然とした。

私が2浪したのはHだけのせいではない。自分の問題である。しかし、受験時代はこういったことがよくある。

私は、こういった経験があるので、受験生どうしが足を引っ張り合うことは見逃せないのだ。自習中のゆんたく、塾の帰りの寄り道、塾外での交際など。受験の妨げになることを防ぐことは塾として大切だと思うのだ。

この1年を無駄にしたいために。